●さりゆく青春
■二度と戻らないものだからこそ美しい。青春とはまさにそれだと、ふと思う。 過ぎ去った日々に想いをはせると、全てが素晴らしく思える。そんなときは決まって、新たな日々への期待の前にある、後ろ向きな瞬間でもある。
■時間を巻き戻すことは決してできないのだけど、物事や気持ちはある程度取り戻すこともできる。ただ、取り戻したところで、以前と同じように自分が感じるかどうかと考えると悩ましい。なぜならそれを取り戻した自分ですら、以前と全く同じではないからだ。
■新型シビック・タイプRの登場によって、タイプRは復活を果たした。ホンダのタイプRは、90年代の初頭から00年代の始めまで、僕らを熱狂させてくれたシリーズである。僕はその時期を20〜30代の前半として過ごした。当たり前だが、タイプRを初めて経験したとき我々は、全員が今よりも若かった。Born to runであるタイプRの思想と哲学に、我々の多くが共感を覚えた頃の話だ。
■そんな、青春のようなタイプRを今、再び取り戻すことができるようになった。僕はそれを何度も、様々な場所で走らせてみた。しかし、新型シビック・タイプRに20〜30代の前半=90年代初頭から00年代の始めまでの熱狂を見いだすことはできなかった。いや正確にいえば、クルマは以前と変わらぬタイプRとしての魅力を全く変えることなく持ち続けていたけれど、僕の方が以前とは同じではなかった…ということだろう。
■いま取り戻すことができるようになったタイプR=シビック・タイプRは、極めて狂おしくエンジンを回し、研ぎすまされた運動を披露する。僕はそれを存分に体感したし、むしろ20〜30代前半の頃からすればドライビングのスキルも様々な経験を経たことで、当時以上にタイプRを味わい尽くせる状況にある。
■しかし僕の気持ちの中に、当時と同じ興奮は沸き起こらなかった…というのが正直な想いだ。別にクルマが嫌いになったわけでもスポーツカーが嫌になったわけでもない。いやむしろ、昔以上にクルマが好きだし、スポーツカーも好きである。だが、取り戻せるようになった青春=タイプRに接してみて、不思議と心は動かされなかったのだった。
■もう一度…という願いや想いは誰にでもあるし、様々なことに対してそれが言える。しかしほとんどの場合、それは胸に秘めた方が良いように思える。二度と戻らないからこそ美しかったはずの物事を、あらゆる手を使って取り戻したとしても、結局のところは自分がその時の自分ではなくなっているのだから感じるものは異なるし、場合によっては悲しみや悔いが残ることにもなる。
■だから自分の中で素晴らしいと思う物事ほど、ソッとしておくに越したことはない…と思えた。やはり、過ぎたるはなお及ばざるがごとし、である。別にあの頃は…と思うほど時間が経過しているわけでもないけれど、過ぎた,物事は決して現在の物事ではないわけで、するとやはりそれは美しい青春の日々と同じなのだ。
■そんな想いからすれば、冒頭の通り僕はいま後ろ向きなのかもしれない。ただそれは同時に、ひとつの時代の終わりを自分の中で認め、そこから始まる新たな日々への期待につながる瞬間であることも間違いない。
■だから僕はいま、さりゆく青春を見送っている。この先、どんな新たなことが始まるかは分からないけれど、いまはただそう思う。

河口まなぶ

コメント
肉体は若返りたいけど、
バランス感覚と感性は戻りたくない。
昔の体力&今の経験値が合わされば……
難しいトコですな。
Posted by: ナパ | 2007年05月21日 16:14
そりゃ〜誰だって想う節は有ると思います。
『美学』と、一言では片付けたくないけど、
それなりの年齢も、生活感も変わり、家族が増えたり、
年収なども変わり、車に対する興味、価値観、物欲等..
以前は外車なんて?って想っていた私も、今は所有してるし、人には国産の車を購入するときに勧めるけど、いざ自分が所有するかと言えば...
自分の歩んで来た道だけど、それは、ずれてるのでも、脱線してるのでもなければ、その人の想いや、感覚、価値感等からくるものだと想うから、今タイプRを
乗って『これだ〜!!なんか?忘れかけてたモノが、
こいつに乗った事で思い出した!!』みたいな?事が
ひょっとしたら?有るかも?しれないし.....
でも、昔の(10年位前)想いと、今の感覚がずれていたりして、能力、知識が今のが沢山有るのに、
それを受け付けない、受け入れない...っていうのは、
寂しいモノですね。
でも、それは車に対しても成長した自分が有るからこその!!想い!!!愛情!!!だと想うのですが....。
Posted by: nibbles46 | 2007年05月21日 17:35
ある程度年齢を重ねた方なら、うなずける部分が多いと思いますよ。
思いや感性も経験を重ねて変化しますし、肉体的な面は・・・。
私の場合20~30代前半の頃は乗っているクルマと自分のスキルが拮抗していたのかな?と。
乗るたびに発見があり、クルマに挑戦していたようにも感じます。
そして今新たな挑戦中です。
バイクを大型にステップアップして、スーパースポーツに格闘中です。
バイクは肉体面が特にきついですが、そこからクルマに乗ると、これまで感じられなかったものを感じられる(気がする?)のです。
河口さん、さりゆく青春があるなら来るべき青春もあるんじゃないですか?
Posted by: とも(EP3) | 2007年05月21日 22:56